テレワークを迫られ自宅内で過ごす時間が長くなり、都市部にお住まいの方の多くが部屋の窮屈さから、働く環境を整えることに苦心しています。
テレビ会議の機会も増え、音の問題も含めた家族空間との距離感が課題に、その解決のためにはワークスペースの確保が必要です。
そのため、利便性の高い自宅をも売却して、郊外の広い住宅へ住み替えを検討する方も多いのではないでしょうか。
しかし、「テレワークは一過性のもの?」など、いま自宅を売却するにはリスクを伴う可能性もあります。
そこで、本コラムでは「家を売り郊外に住み替えるのは現実的?」なのか探りました。
テレワークが及ぼす不動産業への影響
テレワークが不動産業界に与える影響は決して少なくありません。企業がコロナ禍でテレワークを採用したことから、郊外物件への需要が高まっています。
テレワークと住いのあり方には、一体どのような因果関係があるのでしょうか。
(1)テレワークの定着化
テレワークは通信環境さえ整えばいつでもどこにいても働けるため、新たな感染症パンデミックにも有効な理想の働き方となるでしょう。
コロナ禍において総務省の調査では、テレワークを積極的に導入している企業の6割以上が労働時間の短縮を可能としました。
企業の生産性においても20%弱の向上が見られるなど、テレワークの定着化が労働者や企業、社会へもたらすメリットは多い模様です。
また、5Gが一般化すれば、国内の通信網は現在のものよりさらに「超高速」「大容量」へと進化していきます。
通信技術の発展によってテレワークの導入ハードルが低くなれば、スタートアップ企業のみならず、多くの企業がテレワークを始める可能性は高いと考えます。
(2)東京都の転出超過が止まらない
総務省統計局の「住民基本台帳移動人口報告」によると、令和2年の「東京都」への転入者数は40.1万人で前年比▲2.6万人(6.1%)減少しています。
一方、転出者数は36.3万人で前年比+2.2万人(6.5%)増加し、転入者数から転出者数を引いた「転入超過数」は3.8万人と前年比で4.8万人もの減少でした。
23区の家族向け賃貸マンションの平均家賃は約34万円と、「都心人気」に衰えはないものの、住宅コストの上昇はコロナ禍の減収により大きな負担となっています。
参考:http://www.stat.go.jp/data/idou/2020np/jissu/youyaku/index.html
(3)テレワークによる郊外物件の市場拡大
本来、くつろぎの場であることを前提に作られた家を、職場と同じように仕事ができる環境へ整えるのは難しいものです。
Web会議で家族の姿が写り込み、あるいは声が入ってしまうような事態や、リビングでは集中できないなどの問題が、郊外への住み替え需要を掘り起こしています。
テレワークにより満員電車で通勤の必要がなくなれば、社員は無理に会社に近い都会に住まなくてもよいので、郊外での広い住宅需要が高まるのは必然です。
こうした動きは、不動産価格体系に変化を生じさせ、不動産関連に限らずさまざまな産業に地理的な変化をもたらすと考えます。
(4)都心から100キロ圏内が人気
住み替えには、つくば(茨城県)、我孫子(千葉県)、宇都宮(栃木県)、木更津(千葉県)、小田原(神奈川県)といった、都心から100キロ圏内の地方都市が人気です。
都心から少し離れてもよいから、テレワークに向いた広い家に住みたいという需要から、特に30代〜40代の子育て世代に選ばれています。
このエリアは都心へのアクセスもよく買い物も便利、海と山を楽しんだり周辺の温泉や手付かずの自然に触れあったり、ワーケーション気分も味わえるのでしょう。
テレワーク普及で家のあり方が見直されている
いままでの会社に近い「暮らせる家」から「暮らしやすく働きやすい家」へ、テレワークの普及により家のあり方が見直されています。
ここでのポイントは「仕事に集中できる」「適度にリフレッシュできる」、そして「ながら家事や育児がしやすい」ことです。
(1)テレワークする人の実態
室内に専用の机など決まった空間がなければ、リビングテーブルを片付けてパソコンや資料を広げ、食事や家事の時間にはまた片付けての繰り返し。
家族が一緒で集中できない、オン・オフの切り替えが難しい、WEB会議ではリビングが丸見え・トイレの音がしたなど、夫婦でテレワークとなるとなおさらです。
夫婦や子供達が1日中一緒にいることになり、リビングはギュウギュウ、子供が走り回れば下の階から苦情が来たりします。
その上、都内で一戸建てを借りるとなると家賃は20~30万円もするので、引っ越すのも現実的ではありません。
(2)ワークスペースの必要性
パートナーも同じくテレワークとなると、相手の存在が気になって集中できない、互いに気を遣って疲れることもあるでしょう。
そのため、ワークスペースがもたらす「集中できる環境空間の確保」がまず重要です。
プライベートな時間をゆっくり過ごせる個室や半個室タイプなら、仕事と生活の空間をきちんと分けられるので、オン・オフの切り替えがしやすく集中できます。
仕事をしながら料理や洗濯などの家事をしたい方には、LDKやリビング階段下などの一角にカウンターやデスクを設けた、部屋の一角型ワークスペースが向いています。
郊外へ住み替えて、中古物件をリノベーションしたり、注文住宅の間取りに取り入れたりして理想のワークスペースが叶うのです。
テレワーク層に向いている家の特徴
これまでの住まい選びは、「夫婦二人用」や「子供の数」といった観点から、部屋数を選ぶことが一般的でした。
これからの住まい選びは「テレワークの人数」という視点も、重要になると考えなくてはなりません。
家の中に生活空間と仕事空間を作るとなると、3LDKや4LDKなど部屋数が多い住宅が必要になります。
郊外の物件は都心の物件に比べて価格が安く、同じ価格でもより広い家が手に入りますが、住み替えの候補とすべきはどんな家でしょうか。
(1)遮音性の高い家
遮音性の高い一戸建てやマンションが、テレワーク時代では選ばれています。
屋外からの騒音が室内に伝わりづらい、室内での生活音の流出も低減できて、プライバシーにも配慮された住まいが理想です。
実際にテレワークを経験した方の中には、「仕事の会話を聞かれたくない」「家族の話し声を聞かれたくない」と気づいた方が多いのではないでしょうか。
多層の外壁構造にしたり、気密性の高いサッシ構造を用いたり、音の出入り口となる開口部にも工夫が施された、高い遮音性能を発揮する家が最適です。
また、家そのものの遮音性が高いと、お子様が騒いでもテレワークや近隣住民に迷惑をかける心配が減り、子育てしやすくなるでしょう。
(2)自治体の福祉・補助制度が充実している
テレワークと共に、子育て世帯の場合は教育施設や病院など、生活する上での利便性も配慮する必要があります。
自治体によって異なる児童手当や医療補助制度などの確認も、住みやすくテレワークする環境にする上で重要なチェックポイントです。
子育て支援制度は、国のものはどこでも使えますが、自治体のものはどの地域に住むかによってサポート内容が変わってきます。
自治体の子育て支援や住み替え支援は、予算の豊富な中核市や人口減少で悩んでいる郊外の都市が比較的手厚い状況です。
家を売るにはタイミングが重要
近いうちに「自宅の売却を検討中の方」はもちろん、「いずれは住み替えたい」とお考えの方にとっても、あらかじめ売却の好機を知っておくことは重要です。
家を売るベストタイミングは、「市況相場」「2022年問題」「季節要因」の観点から絞り込めます。
(1)相場動向を見る
不動産価格の相場感を確認するには「不動産価格指数」を参考にします。
国土交通省が不動産の取引価格情報を基に公表している不動産価格指数は、不動産価格の動向と相場を把握するために役立ちます。
下記のグラフは令和2年8月分の不動産価格指数です。
参考:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001374622.pdf
2010年の平均を100とした場合、住宅総合では緩やかな上昇傾向が続き、なかでもマンションは、2013年以降現在に至るまで、右肩上がりの傾向が続いています。
一方、戸建住宅は2010年以降、100を少し超えた推移の状態でほぼ横ばいです。
不動産のセオリーからすると、相場が「右肩下がりが続くなら早く売る」、「右肩上がりが続くなら様子を見る」、「横ばいならいつ売るのも同じ」となります。
しかし、この指数は今後も上昇・横ばいが続くと保証されるものではありませんので、それぞれの判断になります。
(1)家を売るなら2022年までがよい
売却のタイミングとして気に掛かるのが、いわゆる「2022年問題」です。1992年の改正生産緑地法により、営農義務が課された農地の税制猶予が終了する年になります。
そのため、深刻な後継者不足や急増する税負担から逃れようと、2022年からは市町村へ買取申出が殺到すると予測され、大量の土地が市場にあふれると懸念されています。
つまり、宅地の供給過多の状況が起きて、売却相場が下がってしまうという仕組みです。
しかし、新たな国の緩和策がアナウンスされ、生産緑地が大量放出されるとの予測はかなり収まり、不動産相場に与える影響も限定的になると考えます。
(2)売り出す月の違いで価格が変わる
売り出す月の違いで売却価格も変わる場合があります。
転勤や子供の進学先が変わるなど、4月からの新生活スタート前「2・3月」は、年間を通して一番の「売り時」といえます。
好機である4月直前の2月・3月は移動シーズンとなり、住み替え需要が高まりますので、好条件で売れる可能性が高まります。
家を2月までに売り出すには、年末以前からすべての売却準備を整え、1月中旬には購入希望者を募れる状態を作り、内覧対応も可能としておくことが大切です。
需要が高まる好機を過ぎてしまうと売買条件の悪化を招くので、急いで売りたいわけではないのなら、次の好機まで売るのを待つのもよいでしょう。
(3)買う側の買い時心理を考える
買う側の買い時心理を推測すると、住宅ローンが低金利の時期が売り時と考えます。
アフターコロナの経済は、リベンジ需要が高まる予測ですが、さまざまな物資の供給不足によりデフレからインフレへ転換するといわれています。
そうなると住宅ローンの金利も上昇が予測されるため、買う側からすると住宅ローンが低金利の「今」が買い時といえます。
家を売る手順
はじめて家を売るのあれば、売却をスムーズにするため、まず売却の手順をザクッと把握することが重要です。
ここでは、家を売る手順をくわしくご紹介します。
(1)不動産会社へ査定依頼
家を売る場合、売却によって住宅ローンを返済したり、住み替え物件の頭金を確保したりすることがあります。
そのため、実際に売却する前に、ある程度の相場を知りたいと思うのではないでしょうか。
いきなり近くの不動産会社に直接出向くのは敷居が高いという方には、ネットで一度に複数社の査定を受けられる「不動産一括査定サイト」の利用をおすすめします。
このサイトは、複数社の査定額を一度に確認できる無料サイトです。
1つの会社ではなく複数の不動産業者へ依頼することにより、価格や条件の比較がしやすく「どこの業者が高い査定か?」も一目でわかります。
(2)査定・業者選定
査定の目的は、「適正な売却価格を決める」「適正な不動産会社を探す」の2つです。
不動産会社のおこなう査定方法は、「机上査定」と「訪問査定」の2つがあります。ネット検索でよい業者と感じたなら、訪問査定を依頼しましょう。
訪問査定とは実際に現物調査をおこない、家を細かく見て査定額を決定する方法です。
机上だけでは分からない家の劣化や傷、最新設備などを加味した正確な査定額が提示されます。
訪問査定は、不動産会社の営業活動の一環であるため無料でおこなえます。
(3)不動産会社と媒介契約を結ぶ
選んだ不動産会社に仲介を依頼するため媒介契約を結びます。媒介契約には、「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3つがあります。
それぞれの違いは、専属専任媒介契約や専任媒介契約は1社に限定した契約、一般媒介契約は複数の不動産会社に仲介を依頼ができるという点です。
契約形態の選択は、メリットとデメリットを不動産会社へ確認して判断するとよいでしょう。
(4)売却活動に入る
いよいよ売却活動が開始されます。具体的な活動は不動産会社によっておこなわれ、売却活動の期間はおおむね2~3ヶ月程度見ればよいでしょう。
販売促進にはインターネットやチラシを用います。インターネット広告は、有名ポータルサイトに載せるのが一般的です。
(5)購入希望者の内覧に対応
購入希望者が現れたら、売主は内覧に対応します。内覧では、不動産会社の担当者が売主に代わって説明や案内などをおこなうため、接待や説明は不要です。
多くの場合、居住中の状態のままで室内の見学に対応しなければならないので、できる限り清掃し整理整頓を心掛けてください。
(6)買付証明をもらう
買付証明とは、家購入の申し込み行為です。売買仲介する不動産会社から書面で受け取る、売主に対して「この家を買う」という意思表示になります。
買付証明書には、「購入希望額」が記載されています。あらかじめ決めた売却価格よりも下回った場合は、不動産会社と相談して決めることになります。
(7)売買契約を結ぶ
買付証明書を頂いた購入希望者と金額や条件面で合意ができたら、仲介業者・売主・買主立ち合いのもと売買契約書を締結します。
この時、売主は買主から売買金額の10%程度の手付金を受領します。また、売主は仲介手数料の半額の支払いが仲介業者へ必要となります。
(8)引き渡し・代金決済
引越しを終えたらいよいよ引き渡しです。売主は現物を引き渡すわけにはいかないので、形式的ですが、家の鍵を渡すことで「引き渡し」とします。
そして、買主から残金の受領、残額の仲介手数料の支払いをおこない家の売却の完了です。
まとめ
現実的には、本格的なテレワーク移行ができる方は、不動産の需要は有限ですので早々に家を売却し、郊外への住み替えを検討してもよいでしょう。
少し状況を見ていたい方は、ご自分のニューノーマルなライフスタイルを慎重に見極め、住み替え検討は長期的なスパンで考えるのがよいかもしれません。
いずれにしてもアフターコロナは、以前のような働き方に戻るとは考えにくく、「家の中のオフィス化」は、これからも住まいのあり方を見つめ直す大きな要因になるでしょう。
※記事中の法律や税率などについては、2022年3月時点のものです。