持ち家の不動産売却となると、「愛着がある家なので少しでも高く売りたい」「ローンが残らないようにしたい」「新生活に十分な資金にしたい」など、思いが交錯します。
そのためには、第一歩の査定相場を把握して、査定額を上げる工夫をしなければなりません。
しかし、日頃から不動産業界に馴染みがある方は少ないハズ、何から手をつければよいか悩まれる方は多いでしょう。
本記事では、持ち家の売却に失敗しないように「不動産売却の査定基準」をご紹介、くわえて査定額UPが期待できる「算出の流れと査定額を上げる要因」を解説します。
実はあまり変わらない不動産(持ち家)の査定額
念頭に置くべきは、不動産売却の際に提示される査定額が、そのままの価格で売却されることはほとんど無いということです。
不動産会社は、「近隣の物件取引事例」「公示価格や路線価」「立地や物件コンディション」など、査定基準や方法はおおむね共通しています。
査定額に多少の差がでるのは、不動産会社の思いや都合が影響しているもので、実際に売却活動をおこなえば買主の値引き交渉によって、査定額より下がるのが一般的です。
売主にとって大切なことは、実はあまり変わらない不動産の査定額を前提に、査定額が決められる基準や方法をよく理解し、期待額や不当な査定額を見抜く知恵を持つことです。
(1)不動産会社の査定基準と方法
不動産の査定方法は不動産会社によって多少異なりますが、査定時に見ているポイントは大手から地元密着型の会社まで、どの会社も大きく変わりません。
不動産会社のおこなう査定方法は、「机上査定」と「訪問査定」の2つがあります。
机上査定とは、事前におこなうアンケート調査やヒアリング調査を参考に、近隣の物件取引事例や立地条件、路線価などを基準として査定額を算出する方法です。
訪問査定とは、実際に現物調査をおこない、家を細かく見て査定額を決定する方法です。
机上だけでは分からない、家の劣化や傷などのマイナス面、最新設備やリフォームなどのプラス面を加味した、正確な査定額が提示されます。
いずれも、不動産会社の営業活動の一環であるため、無料でおこなえます。
(2)不動産鑑定士の査定基準と方法
難易度が高い国家資格を持つ不動産鑑定士がおこなう鑑定は、不動産がどれほどの経済的な価値を持つかを算出する厳格な行為です。
そのため、鑑定額を不動産の売却価格の参考とする機関は多くありますが、鑑定の主旨は直接的に売価を割り出すことではありません。
国土交通省が定めた不動産の「鑑定評価基準」に則っての鑑定行為であり、固定資産税評価額などの算出、金融機関から依頼される担保価値を算出するときに活用されます。
一般的には査定額より多少高めなのが鑑定額といわれますが、不動産査定のように相場で上下することは無いので、その根拠はありません。
不動産会社があまり取り扱った事例の無い、特殊な間取りや敷地形状、査定にマイナス要素が多い周辺環境がある場合などは、利用を検討するとよいでしょう。
鑑定には数十万円ほどかかる場合もありますが、公的にも利用される信ぴょう性の高い内容ですので、取引の状況によっては必要とされる場面がままあります。
不動産会社は売却査定をこう捉える
不動産査定とは、不動産会社による「売却予想価格の算出」です。仲介することで見込む仲介手数料も考慮に「この価格で売れるだろう・売りたい」という価格です。
したがって、予想値・期待値の元にだされる価格であり、販売期間も周知の期間を取る必要性から3~6ヵ月と捉えるので、その金額で売却が保証されるものではありません。
家は今の相場を考慮し売却予想価格と販売予定期間を立てない限り、適切な販売価格を設定できません。
販売価格は安いと売主・不動産会社とともに利益を損失しますし、高いとなかなか売れないという事態を招きます。
そのため、不動産会社が提示する査定額は予想値や期待値であるがゆえに、適正で信頼できる不動産会社に依頼し、精度の高い査定額を得ることが大切です。
家の査定に影響する5つのポイント
家の査定方法は不動産会社によって多少異なりますが、査定時に見ているポイントはどの業者でも共通しています。
訪問査定で必ず見ている5つのポイントを事前に知っておきましょう。
(1)新築からの築年数
査定時にまず見られるポイントは家の築年数。当然ですが、築年数がかさむほど建物の査定価格は低くなります。
下の図は築年数と査定率との相関図です。
縦軸(年)横軸(%)※編集部でグラフ作成
参照:国土交通省HP
参考:https://www.land.mlit.go.jp/webland/servlet/MainServlet
家には構造の種類によって法定耐用年数が決められていて、例えば木造住宅は22年、鉄筋コンクリート造なら47年と定められています。
木造の家は築15年あたりから急激に査定価格が下がり、築20年を超えると新築購入時の1割程度になると公表されています。
一般的には木造の戸建てが多いので、法定耐用年数に近い築20年を超えた家の査定価格は、新築時価格の10~0%になることも珍しくありません。
(2)家の内部状況
家の内部状況も、査定時の重要なチェックポイントです。部屋の清潔度、異臭は無いか、生活しやすい動線が確保できているかなど隈なく見られます。
さらに、使い勝手のよい間取りか、収納や新規家具の配置がしやすいか、天井や壁紙、フローリングの劣化状況も査定時の評価ポイントです。
(3)家の外装状況
屋根・破風の部材や劣化、外壁の塗装が剥がれていないかシーリングの劣化状況、全体的に破損箇所は無いかが査定時のチェックポイントです。
築年数が古い家は構造体自体に問題が生じている場合があるので、水平器等を使って建物の傾きを見たり、扉や窓の開閉状況を確認したりします。
外装の劣化がひどい、傾きが大きいなどの場合は、査定額に大きく影響するほか、売却を断られることもあります。
(4)敷地の形態
家の売却の際には、建物と土地を分けて査定します。敷地の形態も、査定時にチェックされるポイントです。
土地に関して査定額に影響を及ぼすポイントは、下記の3つです。
- 形状と面積
- 日照と眺望
- 認定道路との接道具合
建築基準法の接道義務を満たしている認定道路に接し、適当な面積があり正方形に近く使い勝手のよい土地は高評価になります。
一方、狭く変形地の場合や認定道路に接道していない土地は、再建築の際に建築基準法の制約を受ける可能性が高く査定額は下がります。
また、再販で人気な高台の眺望がよい場所や、南向きで日当たりがよい土地も高評価です。
(5)名義人の確認
相続した家を売却する際、売主名と登記簿謄本の所有者名が異なる場合がままあります。また、共有名義の接道(私道)の持ち分を名義変更していない場合もあります。
このような場合は、業法上不動産の売買取引はできませんので、相続物件の売却の際には、事前に名義人を確認しておきましょう。
建物の査定額アップが期待できる要因
ここでは、建物の査定額アップが期待できる具体的な3つの要因をご紹介します。先述したチェックポイントによる基礎査定に+&となりますので、確認しておきましょう。
3つの要因はつぎの通りです。
- リフォーム(修繕・改善)やリノベーション(改良)している
- 建具や仕上材のグレードが高く上質
- 最新仕様の設備がある
床に段差が無いオールバリアフリー、多発する地震に耐震補強、太陽光発電やオール電化などの省エネ設備、これら住宅の付加価値を高めるリフォームは査定額が上がる要因です。
また、キッチンやリビングをフルリノベーションしている場合もポイントが加算、キッチンにビルトイン食洗器やダウンライト、リビングに間接照明などは買主に好まれます。
床材や外壁材のグレードが高い場合や、最新設備「ホームオートメーション機能」、遠隔操作設備や自動点灯照明などが装備されていれば積極的にアピールするようにしましょう。
5建物の査定額ダウンが予想される要因
住宅の査定額は、建物の性質によっては基礎査定マイナスとなる場合があります。
次のような要因がある物件は、査定額が下がります。
- 旧耐震基準で建てられている
- アスベスト吹付や含有建材が使われている
旧耐震基準(1981年5月31日以前)で建てられた住宅は、地震に対する耐久構造が現行基準より緩く、強度に不安が残り査定額を下げる要因の1つです。
有害物質アスベスト吹付や含有建材が、断熱材やスレートなどに使われてる住宅は、大きく査定額が下がります。
古い建物は、1975年以前のアスベスト使用の可能性、1981年5月以前の旧耐震基準で建てられているなど、イメージが悪く買主から嫌われる傾向にあります。
6不動産(持ち家)査定によくある質問
ここでは、不動産(持ち家)査定によくある質問と回答をご紹介します。
Q、査定にはどれくらいの期間がかかりますか?
A、通常は査定にかかる期間は、机上査定と訪問査定とともに1~2時間程度です。その後、役所調査、法務局調査などが必要となりますので、査定書を提出するには数日から1週間程度かかることが一般的です。
Q、訪問査定に用意するものはありますか?
A、可能なら、住宅の購入時の契約書や見積書などの書類、パンフレットなどを用意しましょう。無い場合でも査定は可能です。
Q、ローンの残っている家の査定はできないのでしょうか?
A、査定は可能ですが、売却できるかはローンを返済しきれるかがポイントとなります。売却により住宅ローンを完済できれば、問題なく進められます。しかし、そうでない場合でもさまざまな方法があるので、まずは不動産会社に相談しましょう。
はじめての不動産査定におすすめの方法
はじめての不動産査定、「良心的な業者がよい」「しつこい営業はいやだ」「騙されたく無い」などと思われている方は多いでしょう。
査定を依頼する不動産会社を選ぶ際、広告や店舗内外の張り紙、ダイレクトメールなどに、下記の業法で禁止されている用語が使われていたら、NG業者なのでご注意ください。
不動産公正取引協議会の定めでは「完全・絶対」「当社だけ」「日本一」など、特定用語の使用基準に抽象的な用語の使用を禁止しています。
また、他の不動産会社と比較するような特定用語「抜群」「確実」「最高級」なども同様です。(ただし、合理的な根拠がある場合は可)
ここでは、はじめての不動産査定におすすめの方法をご紹介します。
(1)匿名AI査定
匿名AI査定とは、匿名でWeb上に求められる必要条件を入力すれば、瞬時に査定額が表示されるネットサービスです。
アカウントの登録は必要ですが他の個人情報は不要なので、気軽に家の査定額が調べられる、不動産会社からの営業攻勢が無い、などのメリットがあります。
しかし、依頼先の不動産会社を選べない、査定を上げるプラス条件は加味されない、などのデメリットもあります。
急いでいない、また「しつこい営業はいやだ」という方におすすめです。
(2)一括査定サイトを利用する
複数の不動産会社に査定を依頼することで、適切で良心的な不動産会社に巡り合える可能性が高まります。
不動産一括査定サイトは、無料で複数の不動産会社に家の査定を依頼できるため便利です。
また、登録している不動産会社も、管理者により厳選されたことが多く安心して利用できます。
先述のとおり査定額=売り出し価格ではありません。したがって、適正な売り出し価格を掴むには、複数の査定価格を一同に査定価格を客観的に見ることが重要です。
「家を売るなら少しでも高く」、その思いに付け込んで、査定額を高く提示してくる不動産会社もいます。
どう考えても相場よりも高い査定額を提示されたときは「一度疑ってみる」、そして「根拠を尋ねてみる」ことが大切です。
売却を検討中の方は失敗のリスクを軽減するうえで、提示された査定の根拠が妥当であるか判断するための、知識を装備することがポイントと考えます。
まとめ
新型コロナの感染拡大に伴う経済情勢の変化で、商業地を中心に地価は下落傾向ですが、住宅地は好調な住宅需要により下落率の縮小が見られます。
また、ニューノーマル(新生活様式)により広がるテレワークや、低金利な住宅ローン、住宅ローン減税の効果などが地方でも住宅需要を下支えしています。
そのため、良質な中古物件の在庫数が減っている「今」が、不動産(持ち家)売却のチャンスかもしれません。
家の売却には「よい業者との出合い」と「判断力」が大切と考えます。この記事を参考に、ご自分の事情に合う査定方法を慎重に決めるようにしてください。
※記事中の法律や税率などについては、2022年3月時点のものです。