手軽に不動産投資をはじめられる不動産クラウドファンディングは、J-REITよりも利回りの高い商品もあり、直接物件を選択して投資できるところが魅力です。
2021年4月にスタートした「利回り不動産」は、その名のとおり利回りのよい物件がそろったクラウドファンディングです。ただ、まだ新しいサービスのため情報の少なさが気になります。
この記事では「利回り不動産」の特徴や口コミ・評判などから、不動産投資ツールとして「利回り不動産」を活用するにあたっての、投資戦略や注意点など役立つ情報をお伝えします。
利回り不動産とは
クラウドファンディングは運営会社の信用が重要です。
集めた資金をどのように使い運用益はどのように分配されるのか、投資対象の不動産にはどのような特徴があるのかなど、事前に正確な情報を集め期待した利回りが実現できるかどうかの見きわめが大切です。
ここでは「利回り不動産」とは、どのようなファンドなのか全体像を確認します。
(1)利回り不動産の概要
「利回り不動産」は、2021年4月12日からスタートした不動産投資のクラウドファンディングサービスです。
不動産特定共同事業法にもとづく投資サービスであり、手軽に1万円から不動産投資をすることが可能です。
2022年5月末時点のファンド一覧が以下の表です。(終了したプロジェクトは除いています。)
プロジェクト | 方式 | 予定利回り | 運用期間 | 劣後割合 | ステータス | 募集金額(万円) |
---|---|---|---|---|---|---|
札幌駅北口PJ第3回 | 先着式 | 7.0% | 6か月 | 10.0% | 6月8日開始 | 630 |
札幌北5条通PJ第3回 | 先着式 | 6.5% | 6か月 | 10.0% | 6月1日開始 | 855 |
北大前PJ第3回 | 先着式 | 6.5% | 6か月 | 10.0% | 成立 | 540 |
札幌中島PJ第3回 | 先着式 | 7.0% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 1,395 |
中村橋マンション再生PJ | 抽選式 | 5.5% | 12か月 | 10.0% | 運用中 | 10,350 |
札幌中島公園PJ第2回 | 先着式 | 6.5% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 495 |
長津田戸建再生PJ | 先着式 | 5.0% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 3,420 |
札幌北18条駅PJ第2回 | 抽選式 | 7.0% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 495 |
札幌駅北口PJ第2回 | 抽選式 | 7.0% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 630 |
白幡台区分マンションPJ | 抽選式 | 6.0% | 12か月 | 10.0% | 運用中 | 900 |
札幌北5条通PJ第2回 | 抽選式 | 6.5% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 855 |
沖縄県那覇PJ | 抽選式 | 6.0% | 12か月 | 10.0% | 運用中 | 8,100 |
北大前PJ第2回 | 抽選式 | 6.5% | 6か月 | 10.0% | 運用中 | 540 |
リブタス中野江原町 | 先着式 | 5.5% | 12か月 | 10.0% | 運用中 | 8,550 |
プロジェクトリストから見ると、札幌市内の物件が多いことが特徴と言えそうです。
運用期間は6か月のプロジェクトが多いですが、投資家が他の物件への乗り換えや換金需要に応えるためか比較的短く設定されています。
継続プロジェクトは期間終了前に再度募集をし、新規契約を締結する方法になります。
(2)不動産特定共同事業のビジネスモデル
「利回り不動産」は、不動産特定共同事業法にもとづく不動産小口化手法により、ビジネスモデルが構築されています。
不動産特定共同事業法とは、1995年4月から施行された法律です。
複数の人が出資金を出し合って取得した不動産を売却や賃貸し、その取引により生まれた収益を分配する事業(これを不動産特定共同事業と言います)が円滑に行えるよう、そして参加者が損害を受けることのないよう、必要な措置を講ずることができる規定を設けています。
複数の人が資金を出し合い不動産を取得しますが、不動産の運営を行う事業者と各出資者が匿名組合契約を締結する方式の「匿名組合型」と、事業者と全出資者との間で任意組合契約を締結する「任意組合型」があります。
匿名組合型は不動産の所有権を出資者は保有しませんが、任意組合型は共有による持分所有権を保有します。
匿名組合型は不動産登記の必要がなく、コストが低減でき流動性が高い出資方法です。
一方任意組合型は不動産登記されるので、相続における節税効果が見込めますが一口あたりの投資額はある程度大きな金額になります。
(3)利回り不動産の運営会社
利回り不動産の運営は、株式会社ワイズホールディングスが行っています。
株式会社ワイズホールディングスは不動産特定共同事業者として、東京都の許可を受けています。許可番号は第143号、事業種別は第1号・第2号に該当し、電子取引業務の許可も受けています。
会社設立は平成26年(2014年)8月で、資本金は2020年8月に不動産特定共同事業1号事業者の要件である1億円に増資しました。
不動産開発・仲介事業からスタートし、2020年に不動産特定共同事業を開始した新しい会社です。
経営陣は不動産開発・不動産投資・ファンディングのエキスパートが固めており、投資対象物件の目利きに不安はなさそうです。
(4)利回り不動産の評判は?
利回り不動産は事業開始からまだ1年ということもあり、口コミ情報は少ないのが現状です。
これまでに投資家を募集し運用期間が終わったプロジェクト総額は3億6千万円弱であり、現在運用中及び募集開始物件総額は3億8千万円弱といった状況です。
1年間の収益予想額は数千万円の単位であり、収益を受け取った投資家の人数はまだ多くなく、信頼性のある口コミや評判を読みとることはまだ難しいと考えられます。
不動産特定共同事業の特性上、事業者には賃貸事業のアセットマネジメント力が問われます。利回り不動産はファンドの運営と事業の運営を、株式会社ワイズホールディングスが担っていますが賃貸事業の管理・運営は直接行わず、一括借り上げ方式による賃貸運営を行っています。
そのため予定利回りは賃貸管理会社とのマスター契約にもとづいた設定賃料で決まるため、ほぼ予定どおりの利回りが期待できるとみられます。
利回り不動産ではじめる不動産投資
利回り不動産を上手に活用するには、メリット・デメリットなど特徴を把握し、注意点を押さえておくことが必要です。
(1)利回り不動産のはじめ方
利回り不動産で不動産投資をするにはまず会員登録をします。
会員登録はスマホかパソコンどちらからでも可能ですが、パソコンの場合は本人確認書類をアップロードする必要があるので、スマホからの登録が手間もかからず簡単に終わらせることができます。
会員登録には要件がありますので、以下を満たしているか確認しておきましょう。
- マイナンバーがわかっている人
- 日本国内に住所があるか1年以上引き続き居住している人
- 20歳以上
登録手続きは簡単で次の手順で行います。
①仮登録では以下の項目に必要事項を入力します。
- 個人か法人かの区分
- メールアドレス
- パスワード
- 秘密の質問と答え
- メールマガジン登録の有無
- 確認と承諾事項のチェック
ここまでが必須事項です。送信すると返信メールがあり記載されたURLをクリックすると仮登録が完了します。
②続いて本登録です。
- 氏名と国籍
- 性別と生年月日
- 住所と電話番号
- 銀行口座
本登録では、投資元本が棄損しても生活に支障がないかの確認をしますので、素直に回答するようにしましょう。(ただし、生活に支障がでる場合は本登録が見送られます。)
③本人確認
パソコン画面にしたがって本人確認書類を画像にしてアップロードします。
(2)ファンド一覧からみる特徴
冒頭に現在運用中と募集開始するファンドを掲載しましたが、特徴としてあげられるのは以下のようなことです。
- 劣後割合が10%と共通
- 半分以上が札幌市内の物件
- 予定利回りは5.0%~7.0% ※2022年6月時点
- 半分以上の物件の募集金額が1千万円未満
- 区分マンションが多く1棟から複数の物件が案件として生じている
- 賃貸用物件はグループ会社「株式会社スリーワイズエステート」とのマスターリース契約による一括貸付を行う事業スタイル
- 再生プロジェクトは転売用物件のためか?一括貸付は行っていない
札幌市に物件の偏りがあるのは、札幌に営業基盤のある人物が経営陣に含まれる影響か、あるいは昨年の事業スタートに向けて札幌市内での物件開発が先行していたものと考えられます。
沖縄での駐車場用地開発など特殊性のある物件の仕込みも特徴と言え、収益性の高い物件に対する目利きには確かなものがあると言えるでしょう。
(3)利回り不動産のメリット
利回り不動産のメリットとして次の点をあげることができます。
- 最低投資金額が1万円なので手軽に投資を始められる
- 運用期間が半年のプロジェクトが多くリスクが取りやすい
- 予定利回りは比較的高いほうであり投資商品としての魅力がある
- 優先劣後方式を採用しておりリスクの軽減が図れる
- 賃貸運用は一括貸付を採用しており収益性が安定している
- Amazonギフト券に交換できるワイズコインが付与される
(4)利回り不動産のデメリット
利回り不動産のデメリットは少ないですが、大きなデメリットは「元本保証」がないことです。
元本保証に関しては利回り不動産だけではなく、すべての投資には元本保証がないため、いかにリスクを軽減するかが投資における鉄則です。
リスクの軽減にはいくつかのセオリーがありますが、代表的なものとして「リスク分散」と「資産配分」をあげることができます。
いわゆる「ポートフォリオ」を組むことにより、万が一元本棄損した場合の損害を低減することができます。
利回り不動産は毎月のように新規ファンドが販売されるので、投資資金を分散させて多数の物件に投資する考え方も重要でしょう。
(5)不動産クラウドファンディングの注意点
「利回り不動産」のような、不動産特定共同事業にもとづいたクラウドファンディングにはいくつか注意したい点があります。
- 運用期間が決まっておりその間は換金できない(一部可能なファンドもあり)
- 投資家同士で分配金受益権を簡単に売買する仕組みがない
- 雑所得に該当するので源泉徴収される
不動産証券化による投資手法として「J-REIT」がよく知られていますが、J-REITは株式投資と同様に証券市場での売買が可能です。
そのため投資した資金の回収や移転が自由にできますが、不動産クラウドファンディングは一定期間資金を固定する必要があります。
クラウドファンディングによる分配金は「雑所得」になるので、支払い時に20.42%(復興特別所得税含む)の源泉徴収がされます。
そのため課税所得金額が694万円までの人は税金が払い過ぎの状態になるので、税金還付を受けるための確定申告が必要です。
(6)任意組合方式の「FAIRE(フェアレ)」との違い
利回り不動産を運営するワイズホールディングス社には、別のファンディング商品として「FAIRE(フェアレ)」があります。
「FAIRE(フェアレ)」は任意組合型の不動産小口化商品です。利回り不動産とは次のような違いがあります。
- 出資者には持ち分にもとづく所有権がある
- 任意組合を設立し出資者は共有持ち分を現物出資する
所有権の登記を伴うのでコストがかかるため、一口の最低金額は利回り不動産のように1万円程度は難しく、ある程度まとまった金額になります。また事業の運営においても任意組合と匿名組合とでは違いがあります。
匿名組合は事業者と投資家の役割や立場がまったく違っていますが、任意組合は組合員が事業を行う主体となり、組合の債務については組合員が連帯して義務を負う形式です。
このように同じ不動産特定共同事業であっても、任意組合と匿名組合では大きく異なり、任意組合型は運用期間の長いプロジェクトが多くなると言えるでしょう。
利回り不動産の活用法
不動産クラウドファンディングへの投資にあたっては、知っておきたい3つの原則があります。
- 資金運用ポリシーを明確に
- ポートフォリオの考え方
- 現物不動産投資との違い
(1)資金運用ポリシーを明確に
不動産投資は運用する資金に応じた投資目的を明確にすることが重要です。
期間:長期、短期
利回り:低い、高い
投資額:100万円以下、100万円超
目標収益:10万円以下、数十万円以上
これらは投資目的を明確にするために、漠然とした希望を具体的な数値として表すパラメーターです。実際に数値を意識することにより、次のような投資目的のバリエーションがでてきます。
- 年間数十万円程度の収益を確保し副収入を作る手段として投資を行う
- 10年後を目標として手持ちの資金を倍にする
- 年間利回り8%超を維持する投資手法を確立する
利回り不動産は利回りが5%~7%の範囲にあり、7%の複利で10年運用できると手持ち資金はほぼ倍になります。
たとえば200万円の資金を10年間7%で運用すると400万円となります。10年後に400万円を再投資し年間7%で運用すると、年間20万円を超える副収入を継続することが可能です。
これはあくまでも1つの例ですが、投資の目的を明確にすることにより、投資戦略が時間の経過により変化することがわかります。
自身のライフプランに合わせて独自の投資戦略を組立て、利回り不動産を軸にして異なる投資商品も組み合わせながら、目標を達成するルートを考える方法がありそうです。
(2)ポートフォリオの考え方
ポートフォリオとは「資産の構成」といった意味で使われる言葉ですが、現金、預金、株式、債券、不動産などの、資産の種類と組み合わせのことをいいます。
- 現金と預金が30%
- 株式や国債が30%
- 不動産が40%
このような組み合わせの人もいれば
- 現金と預金が20%
- 不動産が80%(うち80%は借金)
というパターンの人もいるかもしれません。
現金や預金は市場の変動によって価値が大きく変わるというリスクは非常に少ないですが、金融商品は大きな変動のある資産です。その代わりプラス側に変動した場合は、短期間で大きなリターンを手に入れることが可能です。
不動産はその中間に位置するような資産であり、比較的安定していますが大きく儲かるという資産ではありません。
望ましいポートフォリオは各個人・各家庭でまちまちであり、標準的なパターンといったものはありません。それぞれがもっともリスクが少なく、そしてもっともリターンの多い組み合わせは何か? を見いだすことです。
(3)現物不動産投資との違い
不動産投資クラウドファンディングによる投資と、現物不動産投資の違いを一言でいうと「投資金額の単位」が異なることです。
現物不動産は最低でも数百万円からであり、個人事業であっても数億円という単位の資金が必要になります。
しかし不動産投資クラウドファンディングをはじめ、証券化・小口化した不動産投資は1万円から可能になっています。
そのためリターン金額の単位も異なります。現物不動産であれば最低でも年間数十万円の収益が期待できますが、証券化・小口化不動産投資は最低だと数百円というリターンしか得られません。
しかし証券化・小口化不動産投資は自己資金による投資になり、借金を抱えることはありません。現物投資はリターンも大きいですが借金も大きくなります。
つまり現物不動産投資と証券化・小口化不動産投資の最大の違いは「借金をするかしないかの違い」と言えるのです。
借金ができることはレバレッジ効果が生まれます、しかしその反面、収益性が悪化すると返済不能というリスクが常にあります。
まとめ
利回り不動産は不動産特定共同事業法にもとづく、匿名組合方式のクラウドファンディングで、2021年4月にスタートしました。運営する株式会社ワイズホールディングスは不動産開発や仲介事業を展開し、2020年から不動産特定共同事業領域に進出しています。
販売するファンドは利回り5%~7%と比較的高く、運用期間は6か月と投資しやすいプロジェクトが多い特徴があります。最低1万円から手軽に投資をはじめることができ、半年で運用結果がわかり分配金を得ることのできるテンポのよさが魅力です。
リスクを少なくリターンの多い投資戦略をしっかり立てて、利回り不動産を活用してください。
※記事中の法律や税率などについては、2022年6月時点のものです。