結婚したカップルの3組に1組が離婚すると言われている現代では、離婚はそう珍しいことではなくなってきました。
しかし離婚は、結婚以上にエネルギーが必要であるともいわれています。
その理由の1つに、財産分与があります。
ここでは、離婚時に分与すべき財産の中に不動産があった場合の分与方法について解説していきます。
離婚時の財産分与とは
離婚時の財産分与とは、夫婦が結婚期間中に協力して築いてきた財産を離婚するときに精算および分配することを言います。
財産分与は夫婦に共有の財産がある場合には、必ず行う必要があります。
この財産分与は、離婚時に有責配偶者に請求する離婚慰謝料とは異なり、離婚原因となった行為を行った側からも請求することが可能です。
通常の財産分与は「清算的財産分与」と呼ばれ、その割合は原則として2分の1とされていますが、一方の配偶者が専業主婦や専業主夫であるなどの理由で離婚後の生活が著しく困窮することが予想される場合には、収入が少ないまたは無い方の配偶者へ多くの財産が分与されるケースもあります。
財産の中に不動産がある場合にはそのままでは公平な財産分与をしにくいことから、売却し現金化してから財産分与を行うケースが少なくありません。
不動産を売却して財産分与する際の流れ
不動産を売却して財産分与を行う際には、以下のような流れで行うことになります。
(1)不動産が誰の名義になっているかを確認する
財産分与を行う際に不動産の売却を行う際には、その不動産の名義がどのようになっているかを確認する必要があります。
名義は基本的に「夫または妻の単独所有」もしくは「夫婦の共有」の2つのパターンがあります。
単独所有の場合には名義人一人の意思で売却することが可能で、ローンの名義人も不動産の所有者となっていることがほとんどです。
ただし、ローンの名義人は一人でももう一方の配偶者が連帯保証人になっているケースもあるので、銀行との金銭消費貸借契約書で確認しておく必要があります。
共有名義の物件の場合には、売却するにあたって共有者全員の許可が必要となります。
単独所有であっても共有であっても、結婚後に購入した不動産を財産分与する場合には、夫婦で築き上げた財産であると評価されるため、財産分与は2分の1を原則として行われます。
(2)不動産の資産価値の査定を行う
不動産を売却して財産分与を行う際には、不動産会社に売却額を査定してもらう必要があります。
売却を前提としている場合には、この査定は基本的に無料で行われます。
財産分与を行う際には、実際に売却した際に出た売却益を夫婦で分け合うため、査定価格とは違いが出てくる可能性があるということを知っておきましょう。
(3)どのような方法で分配をするかを決定する
財産分与の割合は、基本的に結婚期間中にどちらかの収入が高い場合でも2分の1となります。
協議離婚の場合には、夫婦の話し合いによって合意をすることで2分の1以外の割合で財産分与を行うことができます。
また、夫婦の一方が特殊能力を有していることにより非常に高い収入を得ていたり、夫婦の一方の浪費によって著しく財産が減っていたりする場合などには、仮に裁判を行ったとしても裁判所が2分の1以外の割合を認めるケースもあります。
不動産を売却するタイミングは離婚前?離婚後?
財産分与のために不動産を売却するタイミングは、いつがベストなのでしょうか。
このタイミングは離婚前に売却したほうが良い人と、離婚後に売却したほうが良い人の2つのケースに分けることができます。
ここでは、離婚前に売却したほうが良いケースと離婚前に売却したほうが良いケースの2つについて解説していきます。
(1)離婚前に不動産を売る方が良いケース
離婚前に不動産を売却したほうが良いケースには、以下のようなものがあります。
①不動産の売却が完了するまで離婚を待てるケース
不動産の売却には早くても3か月、遅ければさらに長い時間がかかります。
そのため離婚前に不動産の売却を行う場合には、売却が完了するまで離婚を待つことができるということが条件となります。
②離婚後にトラブルを起こすのを避けたいケース
離婚前に不動産を売却することで、しっかり売却について夫婦で話し合いを行い同意することができるというメリットがあります。
夫婦間での同意があれば、離婚後に不動産の財産分与に関する事柄でトラブルになるケースが非常に少なくなります。
離婚後はお互いに連絡が取りにくくなる傾向があるため、不動産の売却手続きが進まないなどの問題が起こりやすくなり、また感情的なトラブルに発展しやすくなるという問題もあります。
問題が深刻になれば弁護士を立てたり、裁判所の判断を仰いだりする必要が出てくる可能性もあり、不動産の財産分与がスムーズに進まなくなってしまいます。
このようなことから、離婚後にトラブルに発展することを防ぎたいと考えている方は、離婚前に不動産の売却を終了させておくとよいでしょう。
③離婚後に相手と交流を持ちたくないケース
離婚後に相手と交流を持ちたくないとお考えの方は、離婚前に不動産の売却をしておくことをおすすめします。
不動案売却とその後の財産分与にはお互いの同意が必要であるため、離婚後に交流を持ちたくない場合には、離婚前のタイミングでお互いに不動産売却と財産分与について話し合い、それらの手続きが完了してから離婚することをおすすめします。
(2)離婚後に家を売る方が良いケース
離婚後に不動産を売却したほうが良いケースには、以下のようなものがあります。
①とにかく早く離婚したいケース
前述したように不動産の売却には、早くても3か月程度の時間がかかります。
そのため、とにかく早く離婚したいという人は離婚後に不動産を売却することをおすすめします。
ただし、不動産はそのまま放置しておくとトラブルのもとになったり、それがさらに深刻化してしまったりすることにもなりかねないため、離婚後になるべく早く売却するようにしましょう。
②離婚後にお互い不動産の売却について話し合うことができるケース
ローンを完済している、すぐに不動産を元金化する必要がないなど、不動産の売却を急がず、離婚後も双方で交流を持つことに抵抗がない場合には、離婚後に不動産を売却することをおすすめします。
しかし、離婚で空き家になっている不動産の場合でも固定資産税や都市計画税の支払い義務は生じるため、離婚後であっても不動産の売却についてしっかりとした話し合いを持ち、早めに売却することをおすすめします。
③不動産を時間がかかってもできるだけ高値で売りたいケース
離婚成立までは、離婚に伴うさまざまな手続きを行う必要があります。
それと並行して不動産の売却を行うと、環境的に売却に専念できない可能性が高くなります。
離婚後であれば売り急ぐ必要もなく、不動産の売却にじっくり取り組むことができるため希望の金額かそれに近い金額で売却することができるでしょう。
離婚時の不動産の売却方法
離婚時に不動産を売却する方法には、以下のようなものがあります。
(1)買取
買取とは、不動産買取業を行う不動産会社が不動産を直接買い取る方法を言います。
不動産会社と価格交渉を行い、合意することができれば早ければ1週間程度で現金化することができるため、とにかく早く不動産を売却して現金化したいと考えている方にお勧めの方法です。
ただし、買取金額は仲介で売却する場合の6割から7割程度になるというデメリットがあることを頭に入れておく必要があります。
(2)仲介
不動産の売却手段として最も一般的な方法が、この仲介です。
不動産会社に売却活動を依頼し、買い手を見つけてもらうという方法で、売却が成立した場合には仲介手数料を不動産会社に支払う必要があります。
この仲介は、不動産の売却方法の中で最も高値で売ることができます。
そのため、ローンの残債が多く売却益で返済を希望している方にはこの方法がおすすめです。
(3)任意売却
不動産会社による査定の結果が住宅ローンの残債より低い場合には、任意売却を行うことを検討する必要があります。
注意しなければならないのは、任意売却の場合仲介で売却する場合の6割から8割程度の売却額になることが多いという点です。
また任意売却をするためには、ローンの融資を受けている金融機関に任意売却の交渉を行う必要があります。
このときの交渉の内容は、ローン残債の圧縮と任意売却の売却益で一括返済ができなかった場合のローンの返済方法についてです。
売却予定額があまりにも低い場合には、金融機関側からの承諾が得られない可能性があるため、注意が必要です。
(4)リースバック
リースバックとは、自宅を売却した後に賃料を支払いながらそのまま自宅に住み続ける方法のことを言います。
リースバックの最大のメリットは、後から買戻しができるという点です。
離婚後にどちらかが自宅に住み続ける場合に、リースバックを使用して売却益を財産分与の対象とし、自宅に残るほうが賃料を払い続けるか買い戻すかのどちらかの方法でそのまま住み続けることができます。
離婚時に不動産を含めた財産分与を行う際の注意点
離婚時の財産分与の注意点には、以下のようなものがあります。
(1)協議離婚をする場合はその内容を文書化しておく
離婚時に財産分与に関する取り決めについてしっかりと話し合い合意することができたら、その内容を公正証書として文書化し残しておきましょう。
離婚協議書でも良いのですが、公正証書のほうが強制力が強いためのちのちトラブルになった際に相手の支払い義務を担保できるというメリットがあります。
また、文書化することでトラブル事態を回避できる可能性が高くなります。
(2)財産分与の請求期間を把握しておく
財産分与の請求を行うことができるのは、離婚が成立してから2年間です。
2年以上経過してしまうと、財産分与の申し立てができなくなってしまうため、注意しましょう。
(3)不動産のローンなどの連帯保証人の地位を消すためにはローン残債の一括返済が必要
離婚した場合でもローンの名義が共同名義であった場合や連帯保証人であった場合には、自動的にその責務がなくなるわけではありません。
このような名義の変更や保証人の立場から外れるためには、基本的にローンの一括返済を行う必要があります。
離婚時に不動産を売却して財産分与したほうが良い理由
離婚時に不動産を売却する場合のメリットには、以下のようなものがあります。
(1)住宅ローンが共有名義の場合その関係を解消することができるため
共有名義で住宅ローンの融資を受けている場合、離婚によって一方の名義に変更することは非常に困難です。
そのため、離婚後も夫婦の双方に住宅ローンの支払い義務が発生してしまいます。
不動産を売却することによって、そのような関係を解消することができます。
(2)住宅ローンの名義変更が認められるケースが少ないため
住宅ローンの名義人ではないほうが自宅に残り生活を続ける場合、金融機関に住宅ローンの名義人を変更してもらう必要があります。
しかし、自宅に残る方の収入が金融機関の基準を満たしていない場合には名義変更を認めてもらうことができません。
そのため、売却してその売却益を財産分与するという方法のほうがより現実的であると言えます。
(3)現金化したほうが財産分与をスムーズに行うことができるため
不動産を売却してその売却益を話し合いによって財産分与することで、より公正かつスムーズに財産分与を行うことができます。
この点が、不動産を売却して財産分与するという方法の最も大きなメリットであると言えます。
オーバーローンの場合にはどのように財産分与を行うのか
オーバーローンの不動産を売却する場合、売却してもその売却益からローン残債を一括で返済することが難しくなります。
そのような場合には任意売却を行うことで、売却益では返済することができないローン残
債を少額にすることができるようになる可能性が高くなります。
まとめ
ここまで、離婚時の不動産売却について解説してきました。
離婚時に不動産を公正かつスムーズに財産分与するためには、その不動産を売却しその売却益を分割する方法がメリットが多いことがお分かりいただけたと思います。
しかし、不動産を売却するタイミングや不動産を売却する際の注意点などをしっかり把握しておかないと、トラブルになる可能性もあります。
トラブルを避けるためにも、自分にはどのような売却方法が向いているかといったことをしっかりと把握してから不動産の売却を行い、スムーズに財産分与を行うようにしましょう。
※記事中の法律や税率などについては、2022年6月時点のものです。