急な転勤や離婚などの理由で、ローンの残りがある不動産を売却したいという状況になってしまうことがあります。
しかし、ローンの残りがある不動産を売却する方法はあるのでしょうか。
さらに、その不動産が売却額よりローンの残りの金額の方が多いオーバーローンの物件である場合には、売却を行うことは可能なのでしょうか。
ここでは、ローンの残りがある物件の売却方法やその手順について解説していきます。
ローンの残りがある不動産は売却できるのか
ローンの残りがあっても、不動産を売却は可能なのでしょうか?結論から言うと、ローンの残りがある物件であっても売却することは可能です。
ただし、それには条件があります。
その条件とは、売却時にローンが完済されていてローンの借り入れを行った金融機関が設定した「抵当権」を抹消しておくことです。
抵当権とは、万が一月々のローンの支払いが滞った場合に備えて、ローンの融資を行った金融機関が不動産を担保にできる権利のことを言います。
ローンが残っている状態の不動産には当然抵当権が設定されているため、ローンの融資を行っている金融機関の許可なく不動産を売却はできないのです。
ローンが残っている不動産を売却する際のローンの完済方法は、一般的には受け取った売却金額の中からローンの残りの金額を支払います。
ローンの残りがある不動産の売却手順
ローンの残りがある不動産を売却する時には、以下のような手順で行います。
- ローンの残りがいくらあるか調べる
- 不動産の売却価格がいくらになるかを調べる
- 不動産の売却額でローンの残りを支払うことができるか調べる
- 不動産の売却を行ってくれる不動産業者を探す
- 買い手と売買契約を結ぶ
- ローンを借り入れている金融機関に一括返済の申し込みを行う
- 不動産の売却とローンの完済を同時に行う
(1)ローンの残りがいくらあるか調べる
まずは、不動産のローンの残りがいくらあるのかを正確に把握しておきましょう。
ローンの残りがいくらかということは、毎年10月ごろにローンの借り入れを行っている金融機関から送付されてくる「年末残高証明書」で確認できます。
この年末残高証明書が手元にない場合には、借り入れを行っている銀行に直接赴いて「残高証明書」を発行してもらうことで、ローンの残りがいくらあるのかを確認できます。
(2)不動産の売却価格がいくらになるかを調べる
次に、所有している不動産がどの程度の価格で売却できるかを調べます。不動産の売却価格を調べるためには、不動産業者に査定を依頼する必要があります。
査定とは、不動産業者が不動産の状態や周辺環境などを調べ、不動産の売却価格を決定することを言います。
しかしこの査定は、不動産業者によって査定のポイントや方法が異なるため、時には不動産業者ごとに数百万円もの差が出てくることがあります。
そのため、不動産の査定は複数の不動産業者に依頼して、最も高額で買い取ってくれる業者を選ぶようにしましょう。
(3)不動産の売却額でローンの残りを支払うことができるか調べる
基本的には、不動産の売却額の中からローンの残りを完済することになります。ですが、実際は不動産を売却した金額では、ローンを完済することが難しいケースがほとんどです。
査定の金額がローンの残りの金額を上回っていれば、そのまま売却を行っても問題はありません。ただし、ローンの残りの金額を下回る売却額が付いてしまった場合、いわゆる「オーバーローン」の場合には、売却額とローンの残りの金額の差を何らかの形で補填する必要があります。
(4)不動産の売却を行ってくれる不動産業者を探す
不動産の売却を依頼する不動産業者を探すためには、複数の不動産業者に査定を依頼します。不動産の査定を依頼する際に最も高い金額提示してくれるだけではなく、担当者が信頼できる不動産業者を選んで、不動産の売却を依頼するようにしましょう。
そのため、査定の時には売却額だけではなく、担当者の態度や人柄もしっかりと見ておくようにしましょう。
最近では不動産の一括査定を行ってくれるサイトもあるため、まずはそのようなサイトを利用してみることもおすすめです。
(5)買い手と売買契約を結ぶ
ローンが残った不動産の買い手が見つかったら、不動産業者に書類の作成や契約時の立ち合いなどを依頼し、売買契約を結びます。
売買契約を結ぶ際には契約書に調印を行い、一般的には売買代金の1割程度が手付金として支払われます。
このときに、不動産の引き渡し日も決まります。
(6)ローンを借り入れている金融機関に一括返済の申し込みを行う
不動産の売買契約を結び引き渡し日が決まったら、ローンの借り入れを行っている金融機関に赴いてローンの一括返済の申し込みを行います。
この一括返済の申し込み方法は金融機関により異なるので、事前に電話などで一括返済の方法を問い合わせておくとよいでしょう。
(7)不動産の売却とローンの完済を同時に行う
不動産の売却、つまり引き渡しを行うタイミングでローンの残りを完済します。
そのためには不動産の売り手と買い手、それに不動産会社の担当者が金融機関に集まり、買い主が支払った売却額からローンの残りを完済して、ローンの残りがある不動産の売却が完了します。
ローンの残りがある不動産を売却する際に相談できる機関はどこ?
ローンの残りが多い・少ないに関わらず、ローンの残った不動産の売却に関して相談したいことができた場合には、売却を依頼した不動産業者の担当者に相談することをおすすめします。
不動産業者であれば不動産の取引の知識も経験も豊富であるため、相談した案件に関しても適切な回答をしてくれるでしょう。
ローンに関しての相談事は、ローンの借り入れを行っている金融機関に相談するとよいでしょう。
住み替えの際に利用できるローンとは
売却益がローンの残債を下回り、その差額を自己資金で賄うことができない場合に利用できるローンはあるのでしょうか。
住んでいる不動産を売却して新しく住む不動産を購入する、いわゆる「住み替え」を行う場合には「住み替えローン」を利用できます。
住み替えローンとは、不動産売却後に売却額で賄うことができなかった金額、つまりローンの残りを、次に購入する不動産の購入額に上乗せした金額を金融機関から借り入れるというものです。
住み替えローンを利用することで、売却額よりもローンの残りの金額が大きい場合でも住み替えを行うことができるというメリットがあります。ただし、住み替えローンの審査は通常の住宅ローンの審査と比較して厳しいというデメリットもあります。
さらに審査を通過しても、借入金額が高額になり返済期間も長期に及びます。自分にしっかりとした返済能力があるか、また今後のライフプランに支障が出る金額の借り入れを行うことにならないかなどの点について注意しておく必要があります。
オーバーローンの物件でも売却できる?
オーバーローンとは、ローンの残りがある不動産を売却した場合に、その売却益よりもローンの残りの金額の方が高額な状態のことを言います。
前述したように、ローンの残りがある不動産には金融機関が抵当権を設定しているため、所有者の意思で自由に売却はできません。
基本的にローンの残っている不動産を売却する場合には、ローンを完済し金融機関から抵当権の抹消を行ってもらう必要があります。そのためオーバーローンの不動産を売却する際には、何らかの方法でローンの残りを完済する必要があります。
オーバーローンの不動産を売却する方法については、次の章で詳しく解説していきます。
オーバーローンの不動産を売却するための3つの方法とは
オーバーローンの不動産を売却する方法には、3つのものがあります。
- 自己資金で完済する
- 住み替えローンを利用する
- 任意売却で不動産を売却する
ここでは、その3つの方法について解説していきます。
(1)自己資金で完済する
住宅の売却額で賄うことができなかったローンの残りとの差額を、預貯金などの自己資金で補填して一括返済することで、オーバーローンの住宅を売却できます。
この方法でローンの残りを一括返済すると、金融機関は抵当権を抹消するためオーバーローンの不動産であっても売却が可能です。
(2)住み替えローンを利用する
住んでいた不動産を売却して新たな不動産に住み替えを行う際に、もともと住んでいた不動産がオーバーローンである場合、この住み替えローンを利用してローンの残りを完済しオーバーローンの不動産を売却するという方法もあります。
住み替えローンにはオーバーローンの不動産を売却するための資金を確保できるというメリットがあります。
ただし、借入金額が大きくなり返済期間も長期に渡ることになるため、住み替えローンの利用は慎重に行うようにしましょう。
(3)任意売却で不動産を売却する
任意売却とは、ローンの融資を受けている金融機関の了承を得て一定の条件下で抵当権を抹消してもらいます。所有者の希望をある程度通しながら一般の不動産市場でオーバーローンの不動産を売却するという方法があります。
任意売却には一般の不動産販売と同様の販売方法ができるため、任意売却物件であると周囲や購入者に知られることがない、一般的な相場の価格での売却が可能であるなどのメリットがあります。
連帯保証人がいる場合にはその同意が必要になったり、ローンの残りの金額と売却額の差が大きすぎると金融機関側が判断した場合には、金融機関が任意売却に同意しなかったりということもあるので、注意しておきましょう。
「買い先行」と「売り先行」どちらの方法で不動産を売却するべき?
「買い先行」とは、新しい不動産を購入してからもとの不動産を売却する方法、「売り先行」とはもとの不動産の売却を行ってから新しい不動産を購入する方法です。
一般的には、売り先行のほうのメリットが買い先行のメリットよりも多いとされています。
売り先行のメリットとは、不動産を使用しながら売却活動を行える、新しい不動産を購入する資金のめどを立ててから新しい不動産の購入を行えるので資金計画が立てやすい、売り急ぐ必要がないため、強気の価格交渉ができるという点などです。
買い先行にも新しい不動産を妥協することなく選ぶことができるというメリットがありますが、やはり売り先行のほうのメリットが多いと言えるでしょう。
任意売却という方法と競売について
任意売却とはローンの残りの支払いが不可能になってしまった場合や、売却後にローンが残ってしまう不動産を、金融機関の同意を得て一般の不動産市場で売却することを言います。
それに対して、正式には一般競争入札と呼ばれる競売は、債権者が債務者や連帯保証人が所有する不動産の売却の申し立てを裁判所に行います。そして、裁判所が債権者の申し立てが正当であると判断した場合に、裁判所の権限で強制的に売却を行うことをいいます。
競売は、ある程度所有者の希望が通り、なおかつ一般の不動産市場で相場の価格で不動産を売却することができる任意売却とは異なります。購入希望者が内覧を行うことができないなどの違いがあるため、物件の購入価格も任意売却と比較して低くなってしまいます。
まとめ
ここまで、ローンの残りがある不動産の売却方法について解説してきました。
基本的にローンの残りがある不動産を売却するためには、ローンの残りを完済し金融機関に抵当権の抹消をしてもらう必要があることがお分かりいただけたと思います。
不動産の売却額がローンの残りを下回る、いわゆるオーバーローンの場合でもその不動産を売却するための方法もあります。
オーバーローンの不動産の売却を行う場合には、自己資金や住み替えローンを上手に活用することをおすすめします。
※記事中の法律や税率などについては、2022年3月時点のものです。