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相続手続きの手間を軽減する「法定相続証情報証明書」とは?

相続手続きの手間を軽減する「法定相続証情報証明書」とは?

相続を行う際には、誰に相続の権利があるかということに関する調査や遺産分割協議、遺産の中に不動産があればその相続登記、預貯金があれば払い戻しなどさまざまな煩雑な作業が必要になります。

このときに最も手間がかかるのが、被相続人の戸籍謄本(除籍謄本・改正原戸籍)を、被相続人の出生までさかのぼって収集し、法務局へ提出するという手続きです。
しかし、法定相続情報一覧図を生前に作成しておくことで、相続が発生した際にこのような相続人が負う負担を軽くすることができます。

ここでは、法定相続情報一覧図について詳しく解説してきます。

法定相続情報一覧図とは

法定相続情報一覧図とは、亡くなられた方(被相続人)の法律で定められた相続関係を一覧にした家系図のようなもので、誰が法定相続人であるかを書面にしたものです。

この法定相続情報一覧図は法務局の登記官が証明するもので、平成29年5月29日にスタートした比較的新しい制度です。
法定相続情報一覧図を生前に作成しておけば、この写しだけで相続関係を証明することが可能になります。

法定相続情報一覧図を作成するメリットとデメリット

法定相続情報一覧図を生前に作成しておくとさまざまなメリットがありますが、デメリットも存在します。

ここでは、法定相続情報一覧図を作成するメリットとデメリットについて解説していきます。

(1)メリット

法定相続情報一覧図を作成するメリットには、以下のようなものがあります。

①相続の発生から5年間は何度でも発行できる

法定相続情報一覧図の写しは、相続が発生した時点から5年間の間は何度でも発行することができます。

預貯金の払い戻しや不動産の名義変更手続きなどで何度も手続きが必要な場合でも、法定相続情報一覧図を提出すればこのような手続きを行うことができるため、確認作業をスムーズに進めることが可能になります。

また、以前は相続税を申告する際に戸籍謄本などの書類を添付する必要がありましたが、現在ではこの法定相続情報一覧図を戸籍謄本などの書類の代わりに提出することで、手続きを行うことができます。

②発行手数料がかからない

法定相続情報一覧図がない場合には、相続に関するさまざまな手続きを行う際に戸籍謄本が必要になります。この戸籍謄本は、発行する際に他1通につき300円から700円の手数料が必要になります。

しかし、法定相続情報一覧図は発行手数料が無料であるため、相続人が金銭的な負担を負う必要がありません。

③複数の相続の手続きを同時進行することができる

戸籍謄本を発行するためには費用が必要になるため、不動産や株式、預貯金など戸籍謄本を必要とする手続きを行う場合、手続きの数だけ戸籍謄本の発行を行うと高額な費用がかかってしまいます。
これを避けるため1セットの戸籍謄本で手続きを行うと、手続きに非常に長い時間がかかります。

このような相続時の手続きに使用する戸籍謄本は法定相続情報一覧図で代用でき、法定相続情報一覧図は発行に費用がかからないため、金銭的な負担を負わずにさまざまな相続に関する手続きを同時に進めることができます。
そのため、手続きにかかる時間を大幅に短縮することも可能です。

④相続人を確認する手間を省くことができる

金融機関などの相続手続きを行う機関では、手続きを行う側が戸籍謄本だけを頼りに相続関係を読み解くことが大きな負担になっていました。
しかし、法定相続情報一覧図には被相続人と相続人の関係が一覧図で記載されているため、被相続人と相続人の関係を一目で把握することができます。

このように法定相続情報一覧図を利用することで、相続人だけではなく相続に関する手続きを行う側の負担も軽くすることができます。

⑤相続証明書としての信頼度が高い

法定相続情報一覧図は、法務局の専門官が提出された戸籍謄本などの書類をチェックし、被相続人の法定相続人が誰であるか審査を行い、内容に問題がないことを確認してから交付される書類です。
法定相続情報一覧図を作成する際に書類に不備があれば審査の時点で改善するように指示をしてくれるため、法務局のいわばお墨付きをもらった書類であると言えます。
そのため、相続のための証明書としての信頼度は非常に高くなっています。

(2)デメリット

法定相続情報一覧図を作成するデメリットには、以下のようなものがあります。

①法定相続情報一覧図の作成に手間と時間がかかる

法定相続情報一覧図は、基本的に申し出を行う人が自分で作成する必要があります。
法務局の専門官は作成された法定相続情報一覧図に、申請に必要な書類が不足していないかということや、内容に不備がないかということをチェックする役割を果たすため、法定相続情報一覧図の作成自体は自分で行うことになります。

法定相続情報一覧図を自分で作成する場合には非常に手間がかかるため、この点がデメリットのひとつであると言えるでしょう。

②必要書類が多いので集めるのに手間がかかる

法定相続情報一覧図を作成するためには、一度は従来の相続手続きを行う場合と同様に戸籍を集めておく必要があります。

戸籍の収集には非常に手間がかかることが多いため、この点もデメリットであると言えます。

③交付されるまでに時間がかかる

登記所へ法定相続情報一覧図の発行を申請した場合、交付されるまでに1週間から2週間の時間がかかります。

申請を行えば、すぐに交付されるわけではないということを覚えておきましょう。

④再発行は申出人しかできない

法定相続情報一覧図は申請を行った後、一定の期間内であれば再発行してもらうことが可能です。

しかし、再発行の申し出を行うことができるのは最初に申し出を行った本人のみとなっているため、他の相続人に法定相続情報一覧図が必要になった場合には、最初に申し出を行った人に再発行の手続きを依頼する必要があります。

⑤全ての相続手続きに使えるわけではない

法定相続情報一覧図は、すべての相続手続きに使用することができるという訳ではありません。
金融機関や証券会社によっては利用できないケースもあるため、そのような場合には一般的な相続手続きを行う際と同様の方法で手続きを行う必要があります。

法定相続情報一覧図を作成する際の注意点

法定相続情報一覧図を作成する場合には、以下のような点に注意する必要があります。

(1)被相続人や相続人が日本国籍を有しない場合には利用できない

被相続人や相続人が日本以外の国籍である場合には、法定相続情報一覧図を作成することはできません。

(2)死亡している親族は記載されない

相続手続きを行う際に作成する「相続関係説明図」には、相続が発生する前に死亡した相続人の子どもや配偶者なども記載されます。

一方で法定相続情報一覧図は、誰が法定相続人であるかを証明する書類であるため、相続が発生する前に死亡している子どもや配偶者の名前は記載されず、続柄のみを記載することができます。

(3)相続人の法定相続分を記載できない

法定相続情報一覧図には、相続人の法定相続分を記載することはできません。

そのため法定相続情報一覧図だけでは、誰にどの程度の遺産を受け取る権利があるかを知ることはできません。

(4)相続放棄した人や相続欠格者の氏名も記載される

法定相続情報一覧図は、戸籍謄本などの情報に基づいて法定相続人を明らかにするために作成されるため、相続欠格者や相続を放棄した人の名前も記載されます。

そのため、実際に相続を勧めていくときには相続放棄申述受理証明書や相続欠格者の刑事裁判の判決書などの書類が別途必要となります。

法定相続情報一覧図の作成に必要な書類とは

法定相続情報一覧図を作成するためには、以下の書類が必要になります。

(1)必ず必要となる書類

法定相続情報一覧図を作成する際に必ず必要となる書類は、以下のような書類です。

①相続人の戸籍謄抄本

相続が発生した日以降に発行された、相続人全員の戸籍謄本または抄本が必要となります。

②被相続人の戸除籍謄本

被相続人の出生から死亡までの、連続した戸籍謄本(改正原戸籍謄本と除籍謄本も含む)が必要となります。

③被相続人の住民票の除票

被相続人の住民票の除票が必要となりますが、準備できない場合には戸籍の附票で代用できます。

④申出人の本人確認ができる公的書類

申出人の住所や氏名が確認できる、住民票の写しやマイナンバーカード、運転免許証が必要となります。

(2)必要となる可能性がある書類

必要となる可能性がある書類には、以下のようなものがあります。

①相続人全員の住民票の写し

法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合には、相続人の住民票の写しが必要になります。

②代理人に手続きを依頼する場合には委任状など

資格代理人が手続きを行う場合には委任状と資格があることが分かる身分証明書の写しが、親族が代理で手続きを行う場合には委任状と申出人と代理人が親族であることが分かる戸籍謄本がそれぞれ必要となります。

法定相続情報一覧図交付までの流れ

法定相続情報一覧図交付までの流れは、以下のようになります。

(1)必要書類を集める

市区町村の窓口で、前述した法定相続情報一覧図作成に必要な書類を揃えます。

(2)申請書と法定相続情報一覧図を作成する

揃えた必要書類をもとにして、法務局のホームページに掲載されている様式や記載例を参考にしながら法定相続情報一覧図を作成します。

(3)法務局に申し出を行う

自分で作成した法定相続情報一覧図を、必要事項を記載した法務局所定の申出書と合わせて法務局に提出します。

法定相続情報一覧図の作成を代理人に依頼することも可能

法定相続情報一覧図の作成を、専門の資格を持った代理人に依頼することができます。
代理人として法定相続情報一覧図を作成できるのは、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士です。

まとめ

ここまで法定相続情報一覧図とは何かといったことや、作成しておくことで得ることができるメリットとデメリット、必要書類や作成の流れについて解説してきました。

法定相続情報一覧図を作成しておくことで、相続の手続きをスムーズに進めることができる一方で、作成するためには手間がかかることがお分かりいただけたと思います。

しかし自分に万が一のことが起こった際に、相続人の相続手続きの手間を減らすために法定相続情報一覧図は非常に役立つため、エンディングノートの記載などと同様に終活の一環として作成しておくことをおすすめします。

※記事中の法律や税率などについては、2022年4月時点のものです。

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